メチレンブルーの夏

昼夜の寒暖差が激しくなったり、夏になって暑い日が続いたりすると、家で飼っている金魚が体調を崩しがちになる。犬や猫であれば、体調が悪いとワンとかニャーとか鳴いたりしてくれるのに、金魚は寡黙にしてうんともすんとも言わなくて、ある日ふと気づくと全身に白いぶつぶつができていたり、鱗が松ぼっくりみたいに開いて弱っていたりする。

金魚はフナが変異したものだから元々はフナと同じくしゅっとした体型で、お祭りの金魚すくいで見かける、いわゆる和金はオリジナルの姿に近い。丸っこい体のもの、目が異様に大きいもの、頭に肉瘤にくりゅうがあるもの、魚なのに背ビレが欠損しているものなど、見た目が変わっているほうが可愛いかったりするので、奇形を定着させることで金魚にはいろいろな種類が存在している。

フナはドブ川でも生きていける丈夫な魚だから、それに近い和金も同様に、水が汚れていても問題なく生きていける。一方で、琉金やらんちゅう、出目金、ピンポンパール等はその愉快な見た目と引き換えに泳ぐ能力や丈夫さが失われているから、水流が強いだけでだめになってしまったりする。

季節の変わり目に体調を崩すと、金魚の全身に白い点々ができる。これは白点病といい一種の風邪のようなもので、抵抗力が落ちたことで水中に常にいる菌に負けている状態だから、放っておくとやがて死んでしまう。また、水槽の他の金魚にうつったりするといけないから、水温を合わせたバケツを急いで用意して隔離する。

白点病に効く薬はメチレンブルーといって、正しい量を入れると水は綺麗な真っ青になる。金魚が弱っているようならメチレンブルーだけではなく、〇・五パーセントの濃度になるように塩を入れて塩浴もさせる。あとは様子を見ながら、バケツの水量だと水が悪くなりやすいから毎日せっせと水換えをして、金魚が回復するように祈るしかない。

十年以上生きたとかいう金魚のニュースや話を聞いて、金魚が長生きする魚だと考えるのは大間違いで、これはイチローを見て野球をやれば大金を稼げると思いこむのと同じくらい馬鹿げている。かつては多くいたと言われている金魚売りがなぜ商売になっていたかというと、それは金魚がすぐ死んでしまうからに違いなく、今のように手軽に買える水中フィルターがない時代に、小さな金魚鉢の水量でそう長生きできるとはおもえない。

それから、金魚はどうも人を見分けているようだし、魚の中では模様などに特徴が出やすく愛着がわきやすい。死んだら換えがきかないのに、死ぬときはあっさり死んでしまう。

昔よりも飼育がうまくなったおかげで、最近は金魚を白点病にさせてしまうこともなくなったけれど、メチレンブルーを溶かした水の鮮やかな青色には死のイメージしかない。白点病になるのは、ようするに人間の管理が甘いだけという話かもしれず、バケツの青い水の中であまり動かない赤い魚影を見ていると、具合を悪くさせてしまった罪滅ぼしのような意識があり、心配で毎日水換えをしないと気がすまないから趣味の旅行や遠出もできなくなる。

いまは熱帯魚屋や養魚場に熱心に足を運ぶこともなくなったけれど、金魚のエサを買いに入った店の水槽で、赤穂の愛好家が生み出した『穂竜ほりゅう』やタンチョウヅルのように頭にだけ赤い瘤がついた『丹頂たんちょう』などを見かけたりすると、朝起きてすぐと夜に帰宅してから、無事に生きのびてくれているように祈りながら、日陰に置いたバケツをおそるおそる覗きこんでいた日々を思い出す。

二〇二〇年一二月二二日