稜線に夕日が沈み、太陽がすっかり隠れてしまってからは、あっという間に夜がやってきた。真っ直ぐな新緑の木々と、もこもこした鮮やかな丸い木とでまだらになっていた山も、暗緑に塗りつぶされてシルエットだけになってしまった。
街道の面影が残る田舎の住宅街を抜けていくと、交通量の多い通りに突きあたる。左に曲がって街灯の少ない歩道を歩いていくと、川に大きな橋が架かっていた。
川幅は広く、河川敷には低木と草が生い茂っている。大きな岩はなくて、ずいぶんと石が細かい。水量が少ない時期だからなのか、岸には本来なら川底にあるような、滑らかな岩石層が露出していた。
そのつるりとした平らな岩の二箇所に大きな穴が開いていて、周りをそれぞれ十人ぐらいの男が取り囲んでいる。投光器が明るく照らしていて、穴に溜まった水が、白く濁っているのがよく見えた。穴からは時々ごぼっと、大きな泡が上がってくる。
指示役の男が、泡がより多く湧き上がってくる方の穴に人を寄せた。男たちの集団が何をしているのかはわからない。興味を持ち、橋の上に立ち止まってその様子を眺めていると、一方の穴から立ち上ってくる泡の量が次第に増えてきた。
ふと、薄暗い土手に目をやると、男たちが座って河原の作業を眺めているのが見えた。土手の上には軽トラックが何台も停まっている。土手に座る男たちや、河原で穴を取り巻いている連中にそれほど緊張感はない。世間話をしているのか、どっと笑いが起きた。
ひとしきり笑いが収まったその時、ひときわ大量の水が溢れ出したかとおもうと、ほんのりと黄色がかった、半透明の大きなクラゲのようなものが穴から浮き上がってきた。
「出たぞ」
男たちが口々に叫んで、その濡れたぶよぶよとした物体に、一斉にフックをかける。土手にいた男たちも素早く駆けおりてきて加勢し、大人数でロープを引っ張りその透明な体を穴から引き摺り出すと、白く濁った水とともに、クラゲはすべすべした岩場に打ち上げられた。
ライトに照らされてぬめぬめと光るクラゲは、ナタを振るう男たちによってすぐに切り分けられ、ポリバケツに小分けされて土手の上へと運ばれていく。そうして、荷台がいっぱいになった軽トラから順に、山のほうへと走り去っていった。
たしかその方面には、成分が濃いことで有名な温泉郷があったはずだった。きっとこの河原のクラゲが温泉の素になっているのだろうと納得して、なおも続く作業を横目に、夜道を急いだ。
二〇二二年一〇月二日